立山良司「エルサレム」
2007-07-01


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立山良司「エルサレム」新潮選書(1993年)

ネット古書店で購入した本ですが、現在でも入手可能です。

本書は、歴史的背景を考慮しつつ、現代のエルサレムの現状を、様々な角度から捉えています。

イスラエル建国とアラブの反発、数度にわたる中東戦争とイスラエルによるエルサレム支配の既成事実化の詳細。例えば、映像などで良く知られる嘆きの壁の前の広場は、パレスチナ人の住居を家具を運び出す間も与えず破壊し、650人のパレスチナ人を住居から追放されて作られたものであること等を知らされます(イスラエル側の言い分は、汚らしいスラム街を破壊しただけで保障も行ったというもの)。

一方、パレスチナ人の現状では、イスラエル国籍を持つパレスチナ人とヨルダン国籍のパレスチナ人との間に生じている溝、キリスト教の現状では、聖地の権益を巡る各宗派間の争いなど、あまり知られていない多くの事実を教えてくれます。

最後に、ユダヤ人の現状でも、宗教派と世俗派の対立、原理的なユダヤ教徒の中にも、一方では、エルサレムの完全ユダヤ化を標榜する一派もあれば、現実のイスラエルは人間の作ったもので、聖書の教える神により作られたイスラエルではないとして、イスラエルの存在を否定する一派もあります。

三大一神教の聖地として、様々な利害が対立している現状には、暗澹たるものがありますが、解決の方法には、イスラエルとパレスチナの対話以外にありえない事が最後に語られます。

出版からやや時間は経っていますが、エルサレムの現状を知るためには必読の一冊だと思います。


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