新村出「新編南蛮更紗」
2007-03-27


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新村出「新編南蛮更紗」講談社文芸文庫(1996年)

当時、すでに出版社在庫切れだったところを八重洲ブックセンターに在庫があって購入したものです。

「広辞苑」の編者として知られる著者ですが、キリシタン文学の研究者としても多くの業績を残しています。

本書は大正13年に発行され当時大変な人気となった「南蛮更紗」(現在は東洋文庫)と翌大正14年発行の「南蛮広記」から編集された、昭和28年創元社刊「新編南蛮更紗」の復刊です。

前半はキリシタンにかかわるエッセイ風なもの(主に「南蛮更紗」から)、後半は本格的な研究成果(「南蛮広記」から)を掲載しています。

やはり、気楽に読める前半が楽しめます。京都で発見されたキリシタン墓碑にまつわる話、京都の南蛮寺の在った場所についての推理、南蛮寺の鐘について等、もう80年も前の文章ではありますが、新鮮な興味を与えてくれます。

一方、後半はかなりアカデミックな内容で、気楽に読める訳ではありません。キリシタン版平家物語等のキリシタン文学が紹介されます。キリシタン文学の多くは日本語習得のための教材として編まれたものですが、広く題材をとっていることには驚かされます。

ところで、著者は、本書「南蛮録」の中で、芥川龍之介の「奉教人の死」について、(登場人物名の)「ロオランもあそこはロレンソと云うべき」と指摘しているのですが、芥川はこれを受けて、人物名を「ろおらん」から「ろおれんぞ」に修正したそうです。著者はそれほどまで権威ある存在だったのですね。

最初にも書いたとおり、本書は現在品切れですが、こういう古典を常に読めるようにするのが本来の文庫の役割なはずですが、現在の出版状況下ではやはり難しいのでしょうか(今や、岩波文庫でも、「これが?」と思うようなものが品切れになっていますからね)。

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